暴力的な無秩序
清水寺の参道でミニ提灯データベースの再起動を決意した夜、私はAmazonフォトのアーカイブから、この写真を引っ張り出した。10年以上前、押し入れに眠っていたミニ提灯を、日の目を見る場所に引き出したときに撮影した写真である。

畳の上に乱雑に並べられた、米粒のようなミニ提灯の群れ。
一見すると、色鮮やかに点在するランダムな点にしか見えない。その時、私はその暴力的な無秩序に圧倒され、立ち尽くした。
その圧が災いしたか、提灯たちは私の妻の手によって、畳の部屋から屋根裏へ、屋根裏から押し入れの奥へと追いやられ、再び長い眠りについた。それとともに、当時ほそぼそと続けていたデータベースへの登録も途絶え、記録は古いハードディスクの底へと沈んでいった。
無秩序の皮を被った秩序
当時、私はミニ提灯の色や形状、構成パーツに着目してデータベースを構築しようとしていた。ランダムに見えるミニ提灯にも、必ず共通項があるはずだと信じていたからだ。
では、表面に描かれた千差万別の図柄はどうだろうか。一見すれば、職人の気まぐれが産んだ無秩序の極みに見える。だが、そこにも隠された秩序があるはずだった。
数学の世界には「カオス」という概念がある。決定論的な数式でありながら、ほんの僅かな初期値の違いによって、未来の挙動が全く予測不能な複雑さへと変貌する現象だ。すなわち、無秩序の皮を被った秩序である。
ミニ提灯の世界も、これと同じではないか。
「お土産用のミニ提灯を製造する」という時代のトレンドが要請した一定の規則性(システム)。そこに「地名」や「地元の風物」という、地域ごとにわずかに異なる初期値を投入する。
その結果、システムは様々なデザインという名の「予測不能な無秩序(カオス)」を日本全国の観光地へと送り出したのだ。
バラバラに散らばる意匠は、ランダムに発生したゴミではない。一定のルールが生み出したカオスの軌跡なのだ。
ならば、データベースの役割は明確である。色、形状、描写物のカテゴリーという属性(パラメータ)を定義し、その複雑性を解き明かすこと。
カオスを制御せよ。
それが、私が押し入れのタイムカプセルを開き、再びミニ提灯との対話を始めた理由である。