宗谷岬:ロマンティシズムの敗北

座標を刻む「北緯45度31分」の提灯が、一点の曇りもない地理的記録なのだとしたら、今回取り上げるミニ提灯は、その対極にある「ファンシー」な情緒の記憶である。

2000年代初頭、私の旅は硬質な機能美に支配されていた。無駄な装飾を排した車内、流れるのは渋谷系のサウンド。そんな「走り」の純粋性を求める空間に、この提灯は、全く異質の「世俗のノイズ」として現れた。

日本最北端の土産物店。棚の中で異彩を放っていたのは、伝統的なミニ提灯が守り続けてきた精緻な配色の理を、軽やかに飛び越えたレインボーカラーのグラデーションだった。

実は、この手の配色自体はすでに地方の土産物屋に出現していた。だが、まさかこの「地の果て」にまで、その画一的な流行がこれほど速く浸食しているとは思わなかった。赤、黄、青……時代の熱狂に背中を押された色彩たちが、最北の厳粛な風景を塗りつぶすように、自由奔放に乱舞している。

中央に描かれたキタキツネに、野生の峻烈さはない。赤いリボンを巻いてデフォルメされたその姿は、土地固有のアイコンが「ファンシー」という強力なフィルターを通して再構築された、当時の日本を包み込むどこか無機質な空気感そのものだった。

プレマシーが放つ新車の匂いとも、私の美意識とも決して共鳴することのない鮮やかな色彩。このミニ提灯を手に取った瞬間に感じたのは、最果てのロマンティシズムが、全国一律の「地方の日常」に包囲されて無慈悲に消去されてしまったという、あきらめに近い苦笑だった。

店主がこの「特異な提灯」を紙袋へ放り込む。

「カサカサ」

その乾いた音は、堅実な「記録」と、期待を少しだけ裏切った時代の「記憶」を一括りにして袋の中に閉じ込め、静かに隔離する際の合図のようでもあった。

座標を刻む「堅い」提灯と、時代の空気が狂い咲いた「ファンシー」な提灯。その両方が揃って初めて、私のなかで「宗谷岬への旅」は、多層的な物語として成立する。